私たちは音楽の未来を奪うチケットの高額転売に反対します

「チケット
高額転売規制法」
成立後の
ロードマップについて

座談会/2018年12月8日、「チケット高額転売規制法」成立。

その時、私達は何を感じたか。これから何をするべきか。

2016年8月23日、新聞に掲載された意見広告が大きなきっかけになりました。日本音楽制作者連盟、日本音楽事業者協会、コンサートプロモーターズ協会、コンピュータ・チケッティング協議会が一致団結して伝えた「高額転売NO」のメッセージ。紙面にはそれに賛同するアーティストや音楽イベントの名が並んでいたこともあり、メッセージは多くの人々に届きました。その後、演劇の世界から日本2.5次元ミュージカル協会の皆さんとも協力体制を組み、東京オリンピック・パラリンピックを前にしてスポーツ界へも団結の輪が広がりました。ついには政治の世界も動き、2018年12月8日、臨時国会の参議院本会議でチケット高額転売規制法(特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律)が成立しました。この2年半の道程をともに駆け抜けたメンバーが各団体から集まり、大きな成果を成し遂げた後のロードマップを語り合います。


▲(左から)野村達矢 日本音楽制作者連盟常務理事/中井秀範 日本音楽事業者協会専務理事/中西健夫 コンサートプロモーターズ協会会長/松田誠 日本2.5次元ミュージカル協会代表理事/東出隆幸 コンピュータ・チケッティング協議会

「チケット高額転売規制法」の主な内容

「特定興行入場券」が対象

特定興行入場券=①チケット販売時に、同意のない転売を禁止する旨が明示され、②特定の日時、場所および「入場資格者または座席」が指定されており、③チケット販売の際に、入場資格者や購入者の氏名、連絡先等が確認されており、④興行主の同意のない転売を禁止する旨、氏名・連絡先等を確認する措置を講じた旨が券面に記載されているチケット

販売価格を超える、業としてのチケット転売を禁止

「業として」=反復継続し、社会通念上、事業の遂行とみることができる程度のものをいう

罰則は1年以下の懲役または/及び100万円以下の罰金

業界の団結、ファンの声で実現した法案成立

―まず「法案成立」のニュースを知った時の率直なお気持ちからお聞かせください。


何より大事なのは、法律成立の「次」
改めて一致団結する必要があります
中西健夫 コンサートプロモーターズ協会会長

中西 業界団体が一致団結して何かに取り組むのは、簡単なようでなかなか難しい面もあると思います。一緒にやっているようで実はお互いが距離を感じているといったケースも考えられますが、チケットの高額転売問題では本当の意味で団結できましたよね。とはいえ、何より大事なのは「次」なんですよ。「法律はつくったけれども、何も変わってないじゃない」となったら、これまでの努力が無駄になってしまうわけです。そのためには啓蒙活動を含めて、改めて一致団結しなくてはいけないと強く感じているというのが、今の正直な気持ちです。

野村 日本の社会には、デジタル化の波が押し寄せているのに法律が追いついていないという構図が常に存在していますが、そんな中で我々が一致団結して、あきらめずに動き続けていたら、現実に法律が追いついてくれたというか、追いつかせることができました。これは業界に大きな勇気を与えたでしょうし、あきらめないでやってきて本当によかったなと素直に思います。

中井 法案成立を知って「よかったなあ」と正直ホッとしたんですけど、すぐに法律に命を吹き込むというか、実効性のあるものにするには、今まで以上の努力が必要だなと実感しました。法律の施行によって、もちろん転売を抑止する効果は生まれると思いますが、取り締まりに頼るだけではなく、法律が適用される以前に転売を防ぐ方法も考えなくてはいけない。ユーザーの皆さんがより使いやすいチケットの二次流通の仕組みを、業界側がきちんと提供できるのかという点も問われてくるでしょう。

松田 僕達が手がけているお芝居だと、チケットが普通の公演で数倍、楽日だと数十倍で転売されていましたので、観客の皆さんからも「なんとかしてほしい」という声を相当いただいていました。ですから実感としては、今回の法案成立にはファンの方々の後押しが大きかったんじゃないかなと思っています。一般の方々が声を上げてくださり、皆さんの力を借りて生まれた法律だと思うので、今度は僕らが皆さんにお返ししなくてはいけないという責任を感じています。本当に、この問題に取り組んでいる間、後ろでファンの皆さんがプラカードを持って声を上げてくださっているイメージが常にありましたから。「がんばれ!」って(笑)。

東出 チケットを取り扱う我々にとっては、本当に切実な問題で、日々が不正にチケットを売買しようとする人達との闘いでした。大量のアクセスや不正なID取得を排除するために、多くの時間を費やしてきたわけで、今回の法律がそういった人達への抑止効果になってくれればと期待しています。時間と費用は、やはり前向きなことにかけていきたいですからね。

国会議員との連携、警察との情報共有

―法案を成立させるためには当然、政治のフィールドに足を踏み入れることになります。エンタテインメント業界と国会議員の方々との連携は、それほど例が多くないと思いますが、いかがでしたか。

中西 政治家の中に、我々の意図を理解して、一緒に闘ってくれる方々がいたことは、とても意義深いですね。本音をいえば、それまでは先入観もあって、できるだけ政治の世界には関わりたくないと思っていましたけれど(笑)。


カジュアルに、フレンドリーに
法律の内容を伝える広報活動を
野村達矢 日本音楽制作者連盟常務理事

野村 チケットの高額転売問題に対して、政治の側も「これは動かなきゃいけない」というムードになったのは、松田さんがおっしゃったように、一般の方々が味方になってくれたことが大きいですよね。中西さんを中心に政治家の方々とやり取りが始まった時に、お客さんの声が追い風になった。音楽ファン、色々な文化のファンの存在を背後に感じながら、政治家の方との対話が進んでいったという感じです。

中西 そもそも2012年にライブ・エンタテインメント議連をつくったのは、会場不足問題がきっかけでしたが、途中で大きく高額転売問題に舵を切ったという流れがありました。そこに東京オリンピック・パラリンピックのチケットの問題も浮上してきて、スポーツ界からもいい風が吹いてきました。


法律へのリテラシーを上げる
業界の間での啓蒙も大事です
中井秀範 日本音楽事業者協会専務理事

中井 野村さんがおっしゃった、世の中の流れに法律が追いつかないことは世の常なんですけれど、だからといって追いつくのを待っているだけでは何も起こらないことがよく分かりましたね。

野村 国会だけではなく、警察との情報共有や連携も大きな力になっています。1月10日に、ELLEGARDENの公演チケットを転売した人物が詐欺容疑で兵庫県警に逮捕されましたが、今回の法律ができる以前に、詐欺容疑で既に数件検挙されているんです。特定興行入場券に指定されたものではなくても、高額転売はダメなんですよ。そこから露呈したのは、ほんの少数の転売ヤーが、大量のチケットを買って売りさばいていたという実態です。詐欺罪で逮捕者が出たことによって、転売目的でのチケット購入が減り、その分のチケットが正規の市場に流通するようになるんだと知ってほしいですね。

次のステップは啓蒙・広報活動

―法律ができたことへの達成感は業界全体に広がりつつあると思いますが、次のステップは法律の内容に踏み込んだ広報活動になるのでしょうか。

野村 チケットを買ってくださる皆さんに、特定興行入場券とはどんなものなのか、知ってもらうところから始める必要があります。これまでイリーガルな二次流通が行われていたチケットとはどこが違うのか、きちんと説明できなくてはいけない。「特定興行入場券」という名称からは、ちょっと堅苦しい印象を受けると思いますので、もう少しカジュアルに、フレンドリーに伝えられるような広報活動が求められるでしょうね。特定興行入場券とそうじゃないものの境界線がどこにあるのか、認識していただくためのシステムづくりは既に始めています。


オフィシャルな二次流通は大至急
整備していく必要があります
東出隆幸 コンピュータ・チケッティング協議会

東出 現状ではお客さんに分かりやすくするために、特定興行入場券に共通のマークをつくり、チケットに掲示するという案が出ています。また、特定興行入場券のオフィシャルな二次流通も大至急、整備していく必要があります。

中井 それをやらないと転売がどんどん地下に潜っていき、こちらも捕捉しにくくなってしまいます。

中西 とにかく分かりやすくという方向性がいいと思うんです。そもそも法律用語をベースにした話は、どうしても難しくなりがちじゃないですか。「業として」の「業」も、一般のユーザーの耳には届きにくいと思いますし、もっと分かりやすい言葉を使って我々が啓蒙活動をすることが大事です。

中井 ユーザーの側だけではなく、実は我々の側もまだまだ疑問点があるわけですよね。売り手の側、主催者側でも啓蒙して、リテラシーを上げることも同時にやっていかなくてはいけません。

中西 全くその通りで、これは個々の会社の役割にもなってくると思いますが、せっかくここまできた流れを止めないためにも、やるしかないと思います。

野村 現場でお客さんからどういう質問が出てくるか、具体的で分かりやすい例のピックアップを始めています。

中井 Q&A集みたいなものがあれば一番いいですよね。

市場のニーズに合わせたチケットの料金設定とは


ファンの声から生まれた法律
次は僕らがお返しする番
松田 誠 日本2.5次元ミュージカル協会代表理事

松田 難しいところだと思うのは、お客さんの中には、法律ができることを応援してくれた人も、転売サイトを利用してチケットを購入していた人もいるわけです。「それでなんとかこの舞台を観ることができました」という人も。それが現実なんですよね。

中井 海外では市場のニーズに合わせてチケットの値段を高くするという発想になっていますよね。逆に当日までに売れなければディスカウントして。

中西 あらかじめ料金に差があるチケットを用意したり、金額を座席ごとに変動させるダイナミック・プライシングが世界的には主流になりつつあります。

野村 高額転売の問題は、正規の値段に上乗せされた分が全く関係のない第三者に流出していたことも大きな問題でしたが、ダイナミック・プライシングを導入した時に、それによって生じた利益をアーティストや主催者などに還元できれば受け入れられやすくなるとは思います。

松田 お客さんも自分が払ったチケット代がアーティストや出演者、自分が応援している劇団や会社にちゃんと還元されていれば納得するんじゃないでしょうか。

野村 以前は日本でもよくやっていた、S席、A席、B席みたいに3券種くらいのグレードをつけて売る方法もありますし、最近海外のアーティストがやっている、特典をつけたプレミアム・チケットを用意する一方で、若いお客さんのためにレギュラーのチケットを安くするやり方もあります。去年くらいからサカナクションもそれを導入しています。

松田 芝居だと日本でも席種が3種類くらいあって、金額にも差があるので、コンサートはどの席も同じ金額で売られている場合が多いと知って驚きました。中国で公演すると、一番高いところが3万円、一番安いところが2千円といったような相当な開きがある設定になることもあります。それに比べると日本はかなり平等意識が強いですよね。

中西 海外や他のエンタテインメントの状況を考えると、コンサートでも段階的にダイナミック・プライシングを試す価値はあると思います。



#転売NO

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